メ〜テレドキュメント 「あの空まで」
偶然名古屋の夜の街で聞こえてきたサルサの音。あの名作映画「ブエナ・ビスタ・ソーシャル・クラブ」の哀感のあるリズムとメロディー。人生の最晩年にいても、こんなに楽しく、美しく、過ぎ去った苦い過去を歌いあげることができるキューバの年老いた音楽家たち。キューバのソンのリズムに日本語の歌詞を付けて歌う、このドキュメンタリーの主人公・尾関さんと須藤さんは、紛れもない“名古屋のブエナ・ビスタ”だった。人生の峠をゆっくりと下り始めた団塊世代のおじさん。様々な人生の苦味を通過したからこそ出てくる”飄々とした味“が、次第に中毒になってくる。そう、私たちの人生も、変わり映えしない、彼らと同じようなものなのだから。そんな人生の中で、音楽だけが唯一の楽しみである彼ら。そのさりげない素敵さ。
今年も、デジカメ・ハイビジョンを武器に、当社の若い作り手たちに、新しい発想と手法を、この“おじさん”たちをテーマに苦闘させた。祝杯!

名古屋テレビ映像 エクゼクティブ・プロデューサー 松本国昭



 人の生き方に影響を与える作品作りをしたい。
 おおっぴらに申し上げるも恥ずかしいですが、これは私が番組作りに携わってきた一番の理由です。それがこれまでに達成できたのかどうかまったくもって知る由もありませんが、実は今回の番組ではそれとはまったく逆に、番組取材を通じて自分の生き方に影響を受けてしまいました。今ではすっかり私もキューバ好きの一人です。
番組に登場するあのおじさんたち(尾関さん、須藤さん)の生きる力に満ち満ちている姿勢は、番組終了後にも私自身の生き方に力を与えてくれました。それぐらい私はこの作品が好きで、あのおじさんたちを愛してしまいました。そのことがドキュメンタリー番組の取材者として正しかったのかどうか、少々疑問が湧き上がりますが、こうして賞をいただけるのですから、素直に喜びたいと思います。本当にありがとうございました。この作品を見てくださった方が少しでも人生を前向きに見つめなおす機会をもっていただければ、これに勝る喜びはありません。
 「自分の人生だで、楽しんで生きたほうがええが。」
番組で取材した時に主人公の尾関さんが語ったその言葉は今も私の胸にしっかりと刻み込まれています。と同時に、その生き方こそキューバ人そのものなのだと最近になってわかりました。

(担当ディレクター)柵木志



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